大雪でパーティー装花が間に合わなかったら?

大手保険会社の社員500人を招いた
インセンティブパーティーを宴会場で受注。

かなりの金額をかけたパーティーで、
会場内の装花にもゲストのこだわりがあるようだ。

しかし前日の大雪の影響で、ホテルが委託していた花屋に
花が届かなくなってしまったと連絡が入った。

まさか装花なしというわけにもいかないため、
ホテル側は急きょ別の花を用意。

だが、ゲストは納得してくれない。

装花代を一円も支払わない上に、
宴会の金額の割引まで要求してきた。

ホテル側はどうすればいいのだろうか。




債務不履行ではない?

大雪のために装花を準備することができなかったとのことです。

ホテルとしてはゲストが指定をした装花を会場に準備する
義務を負っています。

それができなくなってしまったのですから、
債務不履行のようにも思えます。

もっとも、債務不履行というのは、契約を締結していた
当事者の一方に責められるべき事情があって、
義務を果たすことができなくなった場合をいいます。
今回はホテルに責任があると言えるのでしょうか。

大雪という自然現象があってのことなので、
不可抗力によるものだとも思えます。



本当の原因はどこにある?

大雪が原因だったのであれば
ホテルの債務不履行ではありません。

しかし本当にそう言えるかは、
相談事例の内容をみるだけでは分かりません。

大雪が原因の一つだったとしても、
クライアントがこだわりをもって指定した装花だとすれば、
ホテルとしてはその装花をパーティーの日に準備をすべき
義務を負うことになります。

もし大雪になった場合には準備できない可能性がある花屋に
ホテルが委託したとするとどうでしょう。

その日に装花が必要になるのがパーティーです。
大雪などの影響を受けにくい別のお店に委託する
選択肢があったかもしれません。



どのような大雪だったのか?

しかし大雪といってもさまざまです。
豪雪地帯に冬に大雪になることがあるのは当然です。
他方で首都圏など雪があまり降らない地域で
突然の大雪に見舞われる場合もあります。

場合によって考え方は変わってくるでしょう。

さきの東日本大震災のように想定できない規模の災害が
起きることもあります。

実際に震災後ガソリンの供給不足で、
車の運転ができない人も出ていました。



不可抗力とは?

不可抗力というのは、抗(あらが)うことができない力
という意味です。

想定できない自然現象などによって、
本来すべきことができなくなってしまう場合です。

ほかに工夫をすればできる場合かどうかも問われます。

自然現象があったとしても、やりようによってはできたという場合、
それは不可抗力とは言いにくくなります。

その状況下において、契約上の義務を果たすことが困難になり、
困難になったことについて責任がないと言える場合といえるかどうか
が問題になるのです。



契約内容が一番重要な問題

ただ、本件で重要なことは、実は、不可抗力かどうか
ということよりも、契約の内容です。

なぜなら、債務不履行か不可抗力かという問題は、
契約で果たすべき義務の履行ができなかった場合に
初めて問題になることだからです。

相談事例ではパーティー当日に、ホテルは装花
そのものの準備をしています。

そこで、別の業者に急きょ注文をして届けてもらった装花が、
ゲストとホテルの間の契約内容に合致しているか、
違反しているかが一番重要な問題なのです。



契約書はあったか? 

契約の内容は書面で残しておくことが何よりも重要です。
後日トラブルになった場合に明確な証拠になるからです。

相談事例では契約書は交わされていたのでしょうか。
単なる個人の宿泊とは違いますので、大規模なパーティー
となれば契約書を交わしておいた方が安心です。

契約書を交わしていた場合、
どのような内容だったかが問題になります。

特定の花屋さんの装花でなければダメだという契約だったのか、
そうではなかったのかです。



装花の代金は誰が負担すべき?

契約内容が特定の業者でなくてもよい場合には、
ホテルとしては装花を準備した以上、
ゲストが代金を支払うべきことになります。

ただ、別の業者に急きょ注文したことによって、
装花のランクなどが格段に変わってしまった場合は、
話し合いが必要になるでしょう。

契約内容が特定の業者の花に限定されていた場合はどうでしょうか。
その場合でも、準備できなくなることは想定できるはずです。
契約書に「準備できなくなった場合どうすべきか」
が記載されていれば、それに従うことになります。



事前の予防策は?

契約書をつくるという観点からは、
同等クラスのほかの業者に依頼できる
などと書いておくことがベターで、
そのような記載だったのだとしたら
代金はやはりゲストが支払うべきことになります。

ただし、特定の業者に強いこだわりがある場合、
ゲストの意思も尊重する必要があるでしょう。

その意味では、
原則としてゲストに意向を確認した上で別の業者に切り替えるものとし、
例外的にゲストの意向を確認する時間がない場合にはホテルが決められる
としておく方法もあります。



話し合いが重要

契約書と言いましたが、
こうした事態も予測できなかったわけではないはずです。

ゲストとの間で万一その業者の花を準備できなくなった場合には
どうすべきかも決めておいた方が安全でした。

事後の話し合いも、もちろん重要です。

相談事例は、ホテルが一方的に別の業者を決めてしまったように
見受けられます。

しかし前日の大雪というやむを得ない事情が発生した以上、
すぐにゲストに連絡をして協議をすれば、
トラブルにはならかったかもしれません。



トラブルを防止するために

今回の相談事例は、
事情によって結論は異なってくる問題だと言えます。

大事なことは、本当の原因は誰にあるのかを解明することと、
契約内容を明らかにすることです。

前者は事実の探求であり、後者は契約内容の特定です。

トラブルをできる限り回避するという観点からは、
今回のような事情が発生した場合に
ホテルがどういう対応をするかを
あらかじめ決めておくことが重要です。

契約書で定型化しておけば万全ですし、
ゲストからの注文を受ける際に
確認をしておくことも重要です。



代金について

以上のとおり、事情によって結論は異なりうるところですが、
基本的にはゲストが1円も支払わないというのはおかしな話でしょう。

なぜなら、その日のパーティーに必要な装花を準備することは
できているからです。

またおそらく、大雪のためということですから、
その状況ではほかの業者に依頼せざるを得なかった
と思われるからです。

それでもゲストが1円も払わないと言っているのは、
値引き交渉の一つかもしれません。

ただし装花にこだわりがあったとのことです。
全額請求することが妥当かについては、
事情によって異なるでしょう。

繰り返しになりますが、
契約内容がもっとも重要な判断基準になります。

契約内を明確にするためには契約書などの書面を
作成しておくことが大切です。