結婚式のクレーム

一生に一度の晴れ舞台である結婚式は、
新郎新婦の思い入れが大きい分、
クレームも大きくなりがちだ。


ある日、1週間前に披露宴を挙げた新郎・新婦から電話が入った。


「当日、サービスの担当者が無愛想な上に、
段取りが悪く、来賓に不快な思いをさせたと思う。
支払った金額の一部を返金してほしい」


しかし、会場側には特段大きなクレームの連絡は入っていない。
人の価値観やとらえ方はさまざまなので、
ホテルとしてもどこまで対応すべきか迷うところだ。


クレームの真意は?


今回の事例はなかなかやっかいかもしれません。
何がやっかいかと言うと、お客さまの真意がつかみにくいことです。


「当日、サービスの担当者が無愛想な上に、
段取りが悪く、来賓に不快な思いをさせたと思う。
支払った金額の一部を返金してほしい」


とのことなのですが、
これまでの事例のように具体的なミスがあるわけではないようです。


担当者が無愛想で、段取りが悪く、来賓に不快な思いをさせた
というお客さまの訴えを、もう少し具体的に解明された方が
よいかもしれません。




何が悪かったのか?


実際にホテルやレストランを利用する立場で考えてみると、
スタッフが無愛想だったということは、けっこう気になるものです。


なんでそんな態度で接客をするのだろう、
注文したのにいつまでたっても頼んだものが出てこないし、
自分たちよりあとから来たお客さんの方に先に頼んだものが出ている…
となってくれば、イライラするのも当然です。


こうしたいっけんささいとも思われる接客態度は、
限られた時間の中で快適な時間を過ごそうとやってきた
お客さまにとっては、決してささいなことではありません。
人によっては二度とここには来ない、と思うものです。




ホテル・レストランはサービス業


このお店はダメだ、最悪だなどと言っている人の話をよく聞くと、
接客サービスが悪かったことを挙げる人が意外と多いものです。


入ったことがないお店でもそう言われると、
じゃあこのお店には行かないようにしようと思う人も多いです。


やっかいなことにそういった話は、さらに人に話したくなってしまうものです。


いったん一人のお客さまに不快に思われるようなサービスをすると、
その一人から派生して多くの人に不評が伝播する可能性があります。


ホテル・レストランはサービス業です。


こうしたささいとも思える失態は、お店にとっても
相当なダメージになる危険があります。


決してささいではないのです。




披露宴ともなると…


ましてや、今回のように披露宴ともなれば、人生の一大事です。
新郎新婦の思い入れが強くないはずがありません。


自分たちだけに起きた不愉快であれば目をつむることもできます。
しかし招待した来賓の方に不愉快があったとなれば、
主催者である新郎新婦としてはそうとうにナーバスになるでしょう。


おめでたい席である披露宴であるにもかかわらず、
来賓の方からクレームが入ったとなれば、
我慢できないほどの接客があったのではないか
と思ってしまうものです。


ホテルで開催する披露宴の来賓となれば、
相当な人数が集まっているでしょう。


そう考えると氷山の一角かもしれません。
黙っているだけで、同じような思いをされた来賓の方が
もっとたくさんいるかもしれない。


そんなことを考え始められたときの新郎新婦のお気持ちを考えると、
ささいなこととは言っていられないでしょう。




さまざまな価値観からすると…


と言っても、


「会場側には特段大きなクレームの連絡は入っていない」


とのことです。


ホテル側からすると、本当にクレームになるような接客だったのだろうか
と考えてしまわざるを得ない面があるのかもしれません。
 

披露宴にいらっしゃる来賓となれば、日ごろはホテルを
利用されないような方もいらっしゃいます。

親戚などには高齢の方もいらっしゃるでしょうし、
その方のお考えによって、ホテルとしては普段どおりの
ことをしているはずが、その方にとっては不快に映る
ということも実際にはあると思います。


おおぜいの方が集まる席では、一人一人の方が緊張などもあり、
ささいなことで感情的になってしまうものだからです。

 
このように考えると、やはり大したことではなかったのではないか。


それでお金の一部を返せというのは、単なる値引き交渉の一つなのではないか。
何か言えば代金が安くなると考えられているのではないか。


ホテルとしてはそう思ってしまうかもしれません。




実際のことは、よく分からない


どうやら新郎新婦サイドから見たときと、ホテルサイドから見たときとで、
物ごとに対する見方や感じ方に違いがありそうです。


しかし、ホテルのスタッフが来賓の方にワインをこぼしてしまった、
あらかじめ新郎新婦の方からある来賓の方の食材のアレルギーを
言っていたのにほかの人と同じメニューがそのまま出された、
といった場合には、明確なミスがあります。


このような場合には、ホテルとしては、
価値観の違いなどとは言っていられないでしょう。


ここで大事なことは、お客さまの伝え方は
必ずしも正確ではないということです。


実際にはこうした出来事があったのかもしれません。
あったけれども、不快な気分で感情的になっていると、
ホテルに伝える際には、相談事例のような漠然とした
伝え方になってしまう方もいらっしゃるはずです。


他方で、本当に価値観の違い、あるいはささいな
感情的なことであり、ホテルとして客観的には
不手際とまでは言えないという場合もあるでしょう。




具体的に聞いてみる


そこで重要になってくるのは、お客さまのご不満の内容を
具体的に聞いてみることです。


そうでしたか申し訳ございません、と言いながらも、
どのようなご迷惑をおかけしてしまったのでしょうか、
と具体的な内容を聞いてみることです。


聞いてみることで、明らかな不手際があったことが
分かるかもしれません。
あるいは、明らかな不手際ではなく、接客上の感情的な
すれ違いに過ぎないようだということが分かるかもしれません。


ホテルとしてどのように対応すべきかを考えるためには、
事実調査が不可欠です。


具体的なクレームが明らかになれば、担当したスタッフからも
事情を聞くことです。 


明らかな不手際がなかったとしても、
披露宴で不快な思いをさせたとしたならば、
それはサービス業として褒められたことではありません。


すべてのお客さまにご満足いただくことは現実には
難しいのだとしても、今後の対応方法を考える上でも、
参考になることがあるかもしれません。
改善すべき点が見つかるかもしれないからです。




法律問題ではない?


披露宴を行なわれたお客さまがあえてこうした苦情を
おっしゃるということは、そこにいたるまでに
納得がいかないことがあった可能性が高いです。


そのプロセスの現れをホテルは受け止めて、
その大本にあった出来事を解明することが大切です。



今回は法律問題にはいたっていませんでしたので、
いくら返すべきかという答えはありません。


法律問題が起きないようにするためには、
日ごろからお客さまの声を大切にすることが何より重要でしょう。