やむを得ない事情での結婚式2カ月前キャンセル。キャンセル料180万円の請求は妥当か?

披露宴を成約していたカップルが、2カ月後に開催が迫ったある日、
キャンセルを申し出てきた。

話を聞くと、急きょ新郎の祖母が体調を崩したため、
祖母の家の近くの式場に変更をしたということだ。

ホテル側は、成約時に説明したキャンセル料70%にあたる180万円を請求。


しかし、新郎新婦からは理由が理由であるだけに、
7割の請求は非道だとクレーム。

そもそも70%の違約金というのは高すぎないかと言い始めた。


ほかの式場を見ても同じような金額を違約金に設定しているようだが、
どう対応すればいいのだろうか。





問題点は二つある?

180万円という金額は会社からすると
それほど大きなものではありません。


しかし、実際に請求をされるお客さまは個人です。
披露宴を開催しないことになったホテルから
180万円の請求をされたお客さまの立場からすると、
法外なキャンセル料ではないかと感じられることでしょう。


今回の相談事例の一つ目の問題は、
2カ月前にキャンセルをしているのに
180万円を請求するのは非常識ではないか
という点です。
キャンセル料である180万円の当否と言ってもよいでしょう。



二つ目の問題は…?

もう一つの問題は、キャンセルの理由です。
急きょ新郎の祖母が体調を崩したため、
祖母の家の近くの式場に変更をしたようです。
お客さまからすれば、やむを得ない式場の変更と言えそうです。


ホテルからすればキャンセルが発生したことになります。
ただしドタキャンではなく、開催日の2カ月前。
やむを得ない事情があり2カ月も前にキャンセルを申し出たのに、
180万円もキャンセル料を請求することは不当ではないか、
これが二つ目の問題です。



契約自由の原則

民法には大原則があります。
当事者間で締結した契約は、原則として尊重されるというルールです。
「私的自治の尊重」といいます。

人と人との関係(いわゆる民民の関係)では、
当事者同士で話し合って契約をしたのであれば、
裁判所もその契約内容を尊重しましょうという原則です。
具体的には「契約締結の自由」と呼ばれ、
その内容として「契約内容の自由」という原則があります。



契約自由の原則からすると…

今回の相談事例では、
開催から2カ月前の時点でキャンセルがあった場合には、
70%相当額を違約金としてお客さまに支払っていただく
という内容だったようです。
180万円という金額は一般の感覚からすれば、
たしかに高いと思います。


しかし、あくまで当事者間であらかじめ締結した
契約の内容どおりです。


ホテルもお客さまも民間同士ですから、
契約内容は自由に決められるのが原則です。
そうすると、契約どおり180万円をお支払いいただくべき
だと言えそうです。



契約締結自由の原則の例外?

最も、契約は自由だと言っても、例外もあります。
極端な例になりますが、例えばAさんを殺したら
1000万円支払うという契約をした人がいたとします。
これも契約ですが、実際にAさんを殺したからといって、
契約どおり1000万円支払えと裁判所が判決で言うでしょうか。


言うはずがありませんよね。
法律的に説明すると、こうなります。


契約内容は当事者で自由に決められるのが原則だけれども、
例外的に公序良俗に違反する場合には無効になると。
民法が、公の秩序や善良の風俗に反する契約は
無効になることを定めているからです。



クリーンハンズの原則

殺人契約をした場合は、
公序良俗に違反することが明らかですから、
契約は無効になります。
クリーンハンズの原則といいます。
裁判所は汚れた手をした者には、
手を貸さないということです。
殺人契約をして殺人を実際にした人に
1000万円を獲得させるような判決を裁判所が書くとすれば、
悪に裁判所が加担することになってしまいます。
それを封じたのが、この原則です。



180万円の違約金は?

さて、では開催日の2カ月前にキャンセルした場合には
70%相当額の違約金が発生するとした今回の契約はどうでしょうか。


殺人契約ではありません。


契約をしていたのに後からキャンセルをされると
ホテルとしても損失が発生します。
準備のために使っていた費用を回収できなくなるからです。
また会場をおさえていたのにこれが使用できなくなれば、
機会損失になります。
こうした損害が発生しないよう、
キャンセルの場合には違約金をとるのですから、
契約そのものが公序良俗違反とは言えないでしょう。



問題なのは金額?

問題なのは金額です。
お客さまとしても、後から自分たちの事情でキャンセルをした以上、
なんらかの違約金を払うべきことは納得されるはずです。
しかし2カ月も前にキャンセルしたのに、
180万円も支払うというのはどうなのか、
それが納得のいかない部分だと思います。
ホテルの立場からすれば、キャンセルは困るよ、
キャンセルしたときは違約金だよ、
というのは当然の論理でしょう。
実際に多くのホテルがそのような契約条項にしている以上、
皆同じだ、常識だよと思われているかもしれません。



実際の損害額は?

しかしほんとうにそう言えるでしょうか。
例えば3日前に突然キャンセルがあったため、
ホテルとしてはその会場を当日まわすことができなかったとしましょう。
この場合、ホテルとしてはその日に会場を使えれば
得られたはずの売り上げをロスしたことになります。
法律的には逸失利益といいます。
得べかりし利益ともいいます。
これがホテルの損害になることは分かります。
それまでにホテルが人員を使って割いた労働や、
支出していた費用について補填してもらう必要もあるでしょう。
その結果、さまざまな諸費用を計算すると、
180万円くらいになる、というのであれば
お客さまも仕方ないと思われるはずです。
実際にホテルに迷惑をかけ、それだけの実損を与えたとしたら、
その責任はお客さまが負担するのが筋だと言えるからです。



今回のケースの場合は…?

今回の場合は、キャンセルをしたのは2カ月前です。
予定の会場はほかの方法により利益を得る方法がまだ可能かもしれません。
2カ月の猶予があれば挽回できるチャンスはありそうです。
お客さまも、事情が発生してすぐに報告をされています。
ドタキャンではありません。
それでも180万円払わなければなりませんか。
お客さまが裁判で争った場合、
果たしてどのような結論になるでしょうか。
もちろんキャンセル料がゼロになることはないでしょう。
しかしホテルはその金額が合理的であることの立証が
必要になるかもしれません。


すべりどめで受験して実際に入学しない大学の入学金が、
消費者契約法に違反するとして大学に返金を命じた裁判もあります。
違約金の本当の意味は安易なキャンセルをさせないことにあるはずです。
訴訟リスクを考えると、運用は状況に応じて考える
という方法もあるかもしれません。


なお、二つ目の問題は、あくまでお客さまの主観的な事情。
ビジネスですから、重要なのは180万円という違約金の合理性です。
ただ、任意に考慮してあげるかどうかを検討されてもよいでしょう。