ケーススタデイ⑲ 「サービス料」

レストランのお会計時に、レシートを見たゲストが文句を言ってきた。

「サービス料というのは何だ? そんな良いサービスは受けていない」

とのこと。


メニューには別途サービス料10%がかかる旨が書かれており、それを説明したが

「そんな小さな字じゃ分からない! 何より、こんなサービスで10%もとるなんて信じられん」

と支払う気はゼロ。


何か不手際でもあったのかと思ったが、
特にサービス中にクレームをもらったわけでもない。


おまけにこのゲストがあまりに大声で騒ぎたてるものだから、
レストラン中の注目が集まっており、ほかのゲストの手前ここで

「ではサービス料は要りません」

なんて返事をしたら問題になりそうだ。



さあ、どうする?!





サービス料に対するクレーム


サービス料は飲食代金とは別に加算されるため、
ご不満に思われるお客さまがでてくることもあると思います。


一般的にお客さまがサービス料を不満に思われる理由は何でしょうか。おそらく次の点からです。


① サービス料がかかるなんて知らなかった。
② サービス料が高いのではないか(サービスの内容にみあっていないのではないか)。
③ チップだとすれば、いくら出すかは自分たちが決めるものではないか。




今回のお客さまの場合は…?


今回のお客さまのご不満な点は、

「サービス料というのは何だ? そんな良いサービスは受けていない」

という点と、

「そんな小さな字じゃ分からない!何より、こんなサービスで10%もとるなんて信じられん」

という点です。


自分たちでサービス料を決めるべきとはおっしゃっていませんが、
だいたい①から③と重なるようなご不満だといってよさそうです。


サービス料は、日本ではホテルのレストランなどではいただくお店が多いです。

ただ、日ごろホテルや高級飲食店を利用されることが少ない一般の方には、
高いという印象があるかもしれません。



サービス料の意味は?


サービス料が日本のホテルのレストランなどにあるのは、
チップの習慣がない日本でサービスの対価をいただくために
始まったものだといわれています。


日本では欧米諸国と異なり、もともとチップを払うという習慣がありません。

そればかりか、ホテルや高級飲食店以外のレストランや飲食店では、
サービス料も発生しないのが一般です。


ふだんは飲食をしてもサービス料など払わないでいいのに、
なぜホテルのレストランではサービス料がかかるのかと思われてしまうことは、
いたしかたないかもしれません。



最近では…


チップを払う習慣がない日本と言いましたが、
最近ではファストフードなどを中心にセルフサービスの飲食店が増えてきました。

ファミレスのドリンクバーなども一般化し、
チェーン店の喫茶店などでも返却や片づけをお客さまがする飲食店が多くなっています。


こういうお店に慣れたいまの方たち(少なくとも若い世代)は、
丁寧に接客をしてくれるホテルのレストランやラウンジなどにいらっしゃるときには、
そうしたサービスの心地よさを楽しむ方も多いと思います。

そういう意味では、ホテルはサービス料がかかるものという認識は
いまではかなり一般に普及していると言えるでしょう。



問題なのは…?


問題なのは、サービスに不手際があった場合です。

あるいはサービスというほどのサービスを受けなかった場合です。


もちろんホテルレストランとしては、こうしたことがないよう
細心の注意を払ってお客さまをおもてなしする必要があります。

とはいえ現実問題としては、粗相をしてしまうこともゼロではないでしょうし、
少なくともお客さまからみて何もサービスを受けていない
(あるいは大したサービスを受けていない)
という場合もでてくることもあると思います。


こういう場合にサービス料をどうするかです。



メニューに表示がある場合は?


サービス料をいただくのに、サービス料をメニューなどに
明記していないホテルレストランはさすがに少ないと思います。

明記していない場合(かつお客さまにあらかじめお伝えしていない場合)には、
お客さまが知り得ない以上、それを強制することは問題があります。

しかしメニューなどに明記されている場合は、
お客さまにあらかじめお伝えしていることになりますから、
それを前提にトータルの飲食代金をいただくことは問題ありません。



サービス料の適法性


問題ないというのはサービスの料や質を問わずということです。

なぜなら飲食代金の10%という価格設定になっており、
具体的に何かのサービスをすることを前提とした料金ではないからです。 


例えば、「サービスの内容は××です」「××1回につき○○円のサービス料がかかります」
という値決めであれば、実際に「××」をしていなかったのであれば、
そのサービス料はいただけません。

800円のアイスコーヒーをお客さまにお出ししていないのに、
アイスコーヒー代として800円をいただくことはできないのと同じです。



サービスがない場合でもよい?


サービス料は、本来的にはチップの代替でした。

つまり、接客サービスの対価ですが、具体的なサービス内容の対価ではありません。


したがって、スタッフがご注文をうかがいにお客さまのもとに行き、
ご注文をいただき、ご注文いただいたお品をお客さまのテーブルまで運びお持ちするなど、
基本的な給仕行為がなされている限り、その満足や不満足によって代金が変わるものではありません。


そのことをメニューに明記しているのです。

「飲食代金の10%を一律サービス料としていただきます」

といった具合です。


今回のお客さまについても、メニューにサービス料が10%発生することが明記され、
基本的な給仕行為はされているようですから、お客さまのご主張は通用しないのが原則になります。



10%は高い?


10%という価格設定はどうでしょうか。

民間人同士では「契約自由の原則」があると、これまで何度か解説をしてきました。


お店のメニューに表示された飲食代金は、どのお店でも異なりますが、
その価格を払わない人は基本的にいないと思います。


これはメニューの表示をみて、お客さまご自身がその価格でその品を出してもらうこと
を前提に注文をするからです。

これによって、例えば1000円で、シーフードピラフを食べる
という飲食契約が成立しています。


契約自由ですから、基本的にはどのような額であっても有効です。

10%というサービス料は多くの日本のホテルレストランで採用している価格で、
不当に高いということはありません
(もしいわゆるぼったくりに近いような不当に高いサービス料であれば、
公序良俗違反になる可能性はありますが、そういうケースではありません)。



どうしたらよいか?


このように10%のサービス料は飲食契約の内容にあたり、
お客さまにはお支払いいただく義務が発生しています。

法律的には当然に請求できる金額となります。

ほかのお客さまと不平等な扱いをすることは信用の問題にもなりますので、
きちんとご説明しご納得いただくことに注力しお支払いいただくのがよいでしょう。