ケーススタデイ(24) 一般的にお客さまとの関係(対ゲスト) において気をつけるべき「法律の視点」

これまで24回にわたって、本誌での連載を続けてきた「ホテルの法律Q&A」。
さまざまなお客さまとのトラブルがあり、それぞれの事例ごとにどのような点が
法律的に問題になるのか、どのように対応をすれば法律上問題がないのか
といったことを解説してきました。
今回はこれまでの総まとめとして、一般的にお客さまとの関係(対ゲスト)
において気をつけるべき「法律の視点」をお話ししたいと思います。




事実を把握する


お客さまとの間でトラブルが発生した場合に、
まずすべきことは事実を把握することです。
事実は真実レベルまで知ることが望ましいですが、
すべてのシーンについてビデオテープがまわっているわけではない以上、
把握できる事実は断片でしかありません。
お客さまが訴えている事実にまず耳を傾けます。
お客さまのご気分を害す対応はいけませんが、
かといってお客さまのお話がすべて事実かどうかは分かりません。
対応していた従業員・スタッフの一人一人から事情を聞くことも重要です。


客観的な資料をチェックする


事実を把握する方法をこのようにお話しすると、
人の話を聞くことだと思われるかもしれません。
もちろん関係者の声に耳を傾け、ヒアリングをすることは重要です。
その中で食い違いがある部分とそうでない部分がでてきます。
食い違いがない部分を見つけることができれば、
その部分については少なくとも争いがない事実として確定することができます。
しかし食い違いがある部分については、
実際にどのような事実が起きたのかを把握するためには、
ヒアリングだけでは限界があります。
そこでチェックすべきは客観的な資料です。



主観をはさまず記録された資料


客観的な資料とは何でしょうか。
それは主観をはさまずに淡々と事実が記録された資料のことです。
ホテルや宴会・レストランの御利用であれば申込書や予約確認書などがあるはずです。
インターネットでの申し込みでも、電話等での書取りメモでも
そこには主観をはさまずに記録された予約内容の記載があります。
契約書があればそれも一つの客観資料です。
レシートや宿泊の明細書なども主観をはさまずに
利用されたサービスの内容と利用代金・その内訳と合計が記録されています。
こうした客観資料と照合することで、ヒアリングした内容から分かる事実を確定させます。



どちらに非があるかの分析


こうしておよその事実を確定させることができたら、
次にすべきことはどちらに非があるかの分析です。
ホテル・飲食店側とお客さま側どちらに責任があるのか、
法律上の責任の所在です。
ホテル・飲食店などのサービス業では、とにかくクレーム的なものでも
すべてホテルが悪いかのように対応してしまいがちです。
しかし実際にどういう対応をするかどうかはともかく、
客観的にどちらに法的な責任があるのかを分析することは重要です。
なぜならそれによって、対応に骨ができるからです。



対応の仕方に差がでる?


ホテルは法律上、責任は負わないけれどもあえてお客さまのためにサービスしているのですよ、
という認識で対応できる場合と、どちらが悪いのか分からないけどとにかく謝らなければ
と思って対応するのとではぜんぜん違います。
さらにお客さまが強気にとんでもないことを要求されたときに、
その対応に大きな差がでるでしょう。
実際に行なう対応の根拠(理由)を明確にスタッフが認識できているかどうかが
対応の骨をつくります。
そしてさらなら要求を受けた場合にスムーズな対応ができるようになります。
一線を超えたなとスタッフが現場で瞬時に判断できれば
必要以上につけこまれることもなくなるでしょう。



予防策・対応策


しかしそもそもトラブルになるシーンに多かったのは、
お客さまに対する説明が不足していたというケースです。
説明の不足はどこまでがホテルの責任かというと、
ケース・バイ・ケースであり、その判断も難しくなります。
しかし説明が十分に足りていれば、説明が不足したことで
どれだけホテルに責任があるか、ということを検証する必要もなくなります。
つまり、事前の説明については十分過ぎるほどしておくに越したことはないのです。
こうしてトラブルの予防にあたってはお客さまへの十分な説明を尽くすことが
極めて重要になってきます。



説明の方法は?


ではどうやって説明をすればよいでしょうか。
口頭で詳細に説明をすればよいと考えるかもしれません。
たしかにお客さまからすれば、ホテルに宿泊するにあたり、
これからホテルで起きるであろうことすべてについて、
スタッフから詳細な説明を受ければていねいかもしれません。
しかし現実的にすべてのことを口頭で説明し尽くすというのは困難です。
そればかりか安らぐためにホテルを利用されたお客さまとしても、
説明ばかり聞かされては時間をとられ迷惑にすらなります。
また、口頭の説明は録音しておかない限り証拠にならないというデメリットもあります。



書面の説明は証拠になる?


こうして宿泊約款などの書面が登場することになります。
ホテルに宿泊約款があり、細かい取り決めが記されているのは、こうした観点からです。
すべて口頭で説明し尽くすことは現実的に難しく、
かつお客さまの貴重なお時間をおとりしてしまう。
そこで読める時間に読んでおいてくださいね、という趣旨でいつでも閲覧できるように
部屋などに置かれているのが宿泊約款なのです。
実際にこれを熟読するお客さまはほとんどいないでしょうが
(職業柄もあり、わたしは出張先のホテルで読んでしまうことがありますが)、
大事なことはあとで証拠として使えるという点です。
その他のやりとりや予約の申し込みなども文書(書面)、
あるいはデータで残る形で保存しておくことです。
それが後々もめたときには証拠になります。



解決の方法は?


トラブルは多くの場合はそれを真摯(しんし)に受け止めることで、
お客さまの気も済むというものが多いと思います。
逆にこれができなかったがために、こじれてしまうことがあるでしょう。
解説では法的な観点からいろいろ指摘をしています。
しかしホテルのスタッフは弁護士でもなければ裁判官でもありません。
起きてしまったトラブルをさらに拡大させ裁判沙汰にするか、
その場で収められるかは、どれだけ真摯(しんし)にお客さまのご要望に耳を傾け、
ホテルとしてできる対応を誠実に行なったかにかかっています。
法律論の前に感情論があり、現実のトラブルは後者が圧倒的に多いです。 
そして法律論にならざるを得ないときは専門家に相談するのが
実は最も的確な解決方法です。